新しい春へ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


暦がここまで進むと、春もさすがに たけなわで。
冬将軍の最後の踏ん張り、
二月クラスの寒の戻りがあった、
そのすぐ翌日という
何とも素早い切り替え、
上着が邪魔でしょうがないほどの
好天が訪れて。
あちこちから桜の開花のお知らせが飛び交うわ、
軽やかな小鳥のさえずりが
どこからともなく聞こえて来るわ。

 「開花のお知らせどころか、」
 「もうすっかりと満開ですものね。」

例年より開花が早かったそのまま、
五月並みという気温に煽られたか、
名所の桜はどこのもあっと言う間に満開を迎え、
お花見への予定調整が追いつかないくらい。
丘の上に位置する某女学園も、
その敷地や周縁を緋白の桜花で囲まれており。
春休みだとはいえ、
練習があって登校している運動部の部員や、
入学式の準備に奔走中の
執行部の顔触れなぞは、
ふと見上げた先に可憐な花手鞠を見、
心癒されていたりもする。

 「さ、もう一踏ん張りですわよ。」
 「ええ。父兄への栞を綴じなければ♪」

相変わらずに
気立てもおっとりとしたお嬢様たちの集う花園で。
こういう役目を言いつかれば言いつかったで、
動き惜しみもせずの、
なかなかな働きっぷりをご披露するほど。
そりゃまあ探せば、
随分と気位の高そうなお人や、
周囲の人を片っ端から瀬踏みするよな
お人もいなくはないが、
それでもそんなの一部の話。
大半は、気のいい 人のいい“お嬢様”ばかりで、
清々しい競争はあっても、
見苦しい足の引っ張り合いになぞ縁もないまま、
朗らか清らかに
楽しい学園生活を謳歌していらっしゃる方々ばかり。

 それというのも

こちらの“女の園”が
陰惨で陰険な風潮を醸さないのは、
極端な派閥抗争がないからとも言えて。
ワタクシこそがナンバーワン、
頂点取って差し上げるわ、おーっほほほというよな、
一等賞大好き、我こそが女王様系の人材が、
少なくとも
今の最上級生が一年だったころからの前後六代にいない。
自分がいなかったころのことは
知り得ぬ判らぬ話だが、
でもでも、居たのなら
多少は名残りの気配があろうはずで。
そういう御方が複数いらして、
抗争、もとえライバル争いが激しくて…なんて事態があったなら、
語り草くらい、聞こえて来そうなものだろに、
そういう話は一切聞かれぬ。
その代わり、

 「入学式の斉唱、
  紅ばら様が伴奏なさるのかしら。」
 「それはもう 決まりではないかしらvv」

そうそう、これこれvv

 「それはそれは
  なめらかにお弾きになられるのが、
  いつも とっても歌いやすいと、
  斉唱部の人がいつも言ってますもの。」

うっとりと語られた一言に続いて、

 「ああでも、わたくし、
  紅ばら様のお声も
  聞いてみとうございますわ。」

別な一人がそんな風に言い出すと、
途端に あ、それ私も、私も同感ですわvvと
次々に手を挙げての同意の声が
カナリアのさえずりのような軽やかさで
愛らしく飛び交ってしまうのも実はいつものこと。
そうなのです、この女学園での 特に現在、
見苦しい女の争いとやらが
起きるよな気配もないのは、
ほぼ皆が皆して、
三華様と呼ばれる
美貌のお姉様がたへ傾倒しているから。

清楚で慈悲深い聖母のような
優しさと嫋やかさを備え、
でも剣道部では凛と厳しいお顔もお見せ。
社交的でクラスの皆の意を揃えるのもお上手な、
それは麗しい白百合様こと、草野様と。

きりりと冴えた鋭い面差しに、
それへといかにも相応しい、
切れのいい所作が何とも凛々しい方。
寡黙でクールなスレンダー・ビューティ、
怖いくらいにお美しい、紅ばら様こと、三木様。

そして、甘くて愛らしい風貌を
上級生のお姉様がたから慈しまれておいでの
でもでも、実は
大学生からも頼られるほど たいそう賢くていらっしゃる、
電脳小町という異名もお持ちの
ひなげし様こと、林田様という

  格別に個性的な三人の美人たちvv

他にもそれぞれに飛び抜けた特徴あってのこと、
三者三様でタイプがくっきり違えばこそ、
よそへは逸れぬ注目と人気が集中しておいで。
同世代のいわゆるアイドルにうつつを抜かすより、
余程のことリアルに萌えられる対象だもの。
声がすれば、周囲がざわめけば、
ついつい そのお姿を探してしまうし、
ああ今日も笑顔を拝見できたよぉvvと、
お友達と感激の報告をし合うのが
ここでは ごくごく当たり前なことだそうで。

  うんうん、平和よねぇ。(苦笑)

そんなお嬢様がたは、
それは丁寧に育まれておいでなせいか、
風貌やら姿態やらの麗しさも飛び抜けており、
そんなためだろか、妙なシンパシー、
一途な取り巻き…というよりストーカーもどきに
勝手にのぼせられ、付きまとわれる恐れもなくはなく。

 「…こ、困ります。」
 「そんな堅てぇこと言わねぇで。な?」

お庭に植えておいでのそれか、
桜の梢がちょろりと覗く
どちらかのお宅の石塀に追い詰められてのこと。
愛らしいセーラー服のお嬢さんが、
随分と着崩れたパーカーやジャンパーを羽織った
砕けた風体の青年二人ほどに
何やら執拗に言い寄られておいで。

 「何もあんたに何かしようってんじゃねぇ。」

 「そうさ、
  この手紙を、ちょっと
  上級生に渡してほしいだけなんだ。」

住所は記されぬ洋封筒をほれと差し出す彼らであり、
どうやら意中のお姉様への伝書鳩を
強引に頼もうとしているようなのだが、

 「そ、そんなこと出来ませんっ。」

彼女にすれば、先輩は皆敬愛するお姉様。
そんな方へ、得体の知れない手紙なぞ、
渡せるはずがないじゃないかと、
いやいやと拒み続けていたのもまた道理で。
預かるだけ預かって渡したと誤魔化す…なんて
小手先の躱し身さえ思い浮かばぬ素直さが、

 「生粋のお嬢様ならではですよねぇ。」
 「ホント、ホントvv」

困ったようなお顔になって苦笑する
金髪細おもてのお嬢様の傍らで、
みかん色のさらさらヘアーの
小柄なお嬢様が楽しそうに相槌を打ち。
その傍らからは、

 「………天誅っ!」
 「はがぁっ!」

残像さえ残さずという勢いで、
ひゅっと駆け出していた
こちらも金髪のお嬢様。
軽やかな金の髪が額に張り付いたのも一瞬で、
スピードに乗った数歩を翔けると、
びくともブレない軸足を基点に、
ぶんっと思い切りぶん回された綺麗な御々脚。
お揃いのセーラー服の少女を
変則壁ドンしていた輩の脾腹へ、
どかんと命中していた恐ろしさよ。

 “いきなり警棒繰り出してないだけ、
  理性は働いておりますよ。”

とはいえ、非力な少女の苦衷を見かねてだとはいえ、
このケースでいきなりそれで襲い掛かっていては、
あとあと、ただの一方的な暴行と言われかねない。

 「な…っ。」

蹴られた一人がその場へへなへなとへたり込み、
残った相棒が仰天して振り返った隙をついて、
追い詰められてた後輩の手を素早く取ると、
おいでという優しさ込めて、
引いてやった紅ばら様。
それは恐ろしい目に遭っていたものが、
急転直下で美しい王子様に救われて、

 「あ、はい。///////」

一気にホッとしたことも手伝ったのだろ、
可憐な双眸を潤ませていたことをどう解釈したものか、

 「大丈夫だ。」

いい子いい子と懐ろへ引き寄せ、
髪を撫でてやったりしたものだから、

 “ああ、そうまでされては
  気を失いかねませんが。”

 “つか、王子様というより、刺客の間違いなんじゃあ。”

こらこら、
白百合様もひなげし様も手厳しいぞ。(苦笑)
部活があったのは、
白百合さんこと七郎次さんだけ。
斉唱部の久蔵さんも、美術部も平八さんも、
実のところはお休みだったのですが、

 「まったく、
  防犯カメラの
  スイッチ切った途端にこれですものね。」

 「というか、
  点検でって
  私たちが来合わせてたところで悪さをするなんて、
  なんてまあ、
  間の悪い人たちなんでしょうねぇ。」

電脳小町こと ひなげしさん謹製の
監視システムのあれこれは、
普段は
学園が契約している警備会社の管制室へ直結されており、
良からぬ気配を察知したらば、
付近で警戒中の配置員へ連絡が及び、
それなりに取り締まってくれるのだが、

 「警察じゃありませんが、
  それでも結構手厳しいお仕置きを
  してくれますものね。」

 「でも…。」

下級生のヲトメを懐ろに庇いつつ、
気絶した相棒の傍らであわわと焦りまくりの生き残り、
ぎろりと睨んでおいでの
和製ミラ・ジョボビッチ様。
紺色のカーディガンつきの、
濃色のセーラー服なんていう、
清楚な装いで包まれた可憐な痩躯も。
仁王立ちという勇ましい立ち方も映えるほど、
何故だか、ずんとシャープに見えて。

 「やっぱり、
  久蔵さんからのお仕置きのほうが、
  不幸だったと思われますが。」

七郎次さんの含みのある言いようへ、
小さな肩をひょいとすくめたひなげしさん。

 「判りました。
  とっとと点検済ませましょ。」

微妙な緊張感の中の睨み合い、と言うか、
片やはすっかり萎縮している青少年には、
最寄りの警察への通報で終止符打ってあげましょねと。
軽やかなアイコンタクトで
示し合わせた美少女さんたちの頭上にて、
今を盛りと咲く緋白の花王、
やわらかい花の房を、
吹く風にゆさりと揺らしておりましたとさ。




   〜Fine〜  15.04.03.



  *別な話を書き始めてたんですが、
   冗長というよりクドくなったんで途中で破棄しまして。
   それで、更新に間が空いてしまってました、すいません。
   それにしても、
   今年の桜は随分と早いですよね。
   東京では、今日の大風でかなり毟られたとかで、
   今年もまた、入学式は葉桜なのね。

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